ドイツ国籍取得と二重国籍の完全ガイド:法改正で日本人が知っておくべきメリットと注意点

ドイツ国籍取得と二重国籍の完全ガイド:法改正で日本人が知っておくべきメリットと注意点 クラシック音楽

2024年6月27日、ドイツの現代史上、最も大きな転換点とも言える近代化された国籍法(Staatsangehörigkeitsmodernisierungsgesetz – StARModG)が施行されました。この改正により、ドイツは事実上の移民国家としての舵を大きく切り、外国人の国籍取得へのハードルを劇的に下げました。

ドイツで生活基盤を築いている日本人にとって、これは朗報であると同時に、極めて慎重な判断を迫られる出来事でもあります。なぜなら、ドイツ側が二重国籍を認めたとしても、日本側(日本の国籍法)がそれを認めていないという法のねじれが存在するからです。

本記事では、最新の法改正の詳細、ドイツ国籍取得の具体的な要件、そして日本人が直面する二重国籍の壁について、公的情報と現地の運用実態に基づき、どこよりも詳しく解説します。

2024年ドイツ国籍法改正(StARModG)の全貌

まずは、今回の改正で何が変わり、何が維持されたのかを整理します。連邦内務省(BMI)が発表している主要な変更点は以下の通りです。

滞在年数の大幅な短縮

これまで、ドイツへの帰化(Einbürgerung)には原則として8年間の滞在が必要でした。しかし、新法ではこれが5年間に短縮されました。これは、永住権(Niederlassungserlaubnis)の取得に必要な期間と同等であり、ドイツでの生活実績があれば、より早期に市民権へのアクセスが可能になったことを意味します。

「特別な統合実績」による最短3年での取得

さらに注目すべきは、優れたドイツ語能力や社会貢献活動が認められる場合、滞在年数が最短3年にまで短縮される特例措置が強化されたことです。これは、高度人材や意欲的な移民を積極的に受け入れたいというドイツ政府の強い意志の表れです。

多重国籍(Mehrstaatigkeit)の原則容認

改正前の法律では、EU市民などを除き、ドイツ国籍を取得する際は元の国籍を離脱することが原則とされていました。しかし、新法ではこの要件が撤廃され、ドイツ側としては元の国籍を保持したままドイツ人になることを完全に容認しました。

改正の概要比較表

項目旧法(〜2024年6月26日)新法(2024年6月27日〜)
原則滞在年数8年5年
短縮特例6年(B2以上・特別な統合)3年(C1以上・特別な統合)
元の国籍原則として離脱が必要離脱不要(多重国籍容認)
ドイツ生まれの子供親の滞在8年が必要親の滞在5年で自動取得
高齢の移民世代への配慮筆記試験必須口頭試験のみで可(緩和)

※「高齢の移民世代」とは、いわゆるガストアルバイター(Gastarbeiter)世代を指します。1950年代から70年代にかけて、労働力不足を補うためにトルコやイタリアなどから招かれた労働者のことで、ドイツの経済成長を支えた功労者です。彼らに対しては、これまでの貢献に報いるため、筆記試験免除などの緩和措置が取られています。

日本人にとっての最大の壁:日本の国籍法第11条

ドイツが二重国籍を認めたことで、これで日本国籍とドイツ国籍の両方を持てる!と考えるのは早計であり、法的には誤りです。ここで日本の国籍法が大きく立ちはだかります。

自己志望による外国籍取得と国籍喪失

日本の国籍法第11条第1項には以下のように定められています。

「日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。」

つまり、ドイツへの帰化申請(Einbürgerung)を行い、自らの意思でドイツ国籍を取得した瞬間に、日本の法律上、日本国籍は自動的に喪失します。ドイツ側が日本のパスポートを持っていていいですよと言っても、日本側がドイツを選んだのであれば、日本国籍はなくなりますと判断するのです。

「隠れ二重国籍」のリスク

実務上、ドイツ政府が日本政府に対してこの人がドイツ国籍を取りましたと能動的に通報する仕組みは現在のところ確立されていません。そのため、ドイツ国籍取得後も日本のパスポートを持ち続け、更新し続ける人がいるのは事実です(いわゆる隠れ二重国籍)。

しかし、これは日本の法律に違反している状態であり、発覚した場合にはパスポートの返納命令や、旅券法違反に問われるリスクがあります。コンプライアンスを重視するキャリアパーソンや、将来的に日本との往来を頻繁に行う予定のある人は、この法的リスクを十分に理解する必要があります。

例外的に二重国籍が認められるケース

すべてのケースで二重国籍が不可というわけではありません。出生や結婚(相手国法により自動付与される場合)など、自己の志望に基づかない形で外国籍を取得した場合は、一定期間(22歳まで等)二重国籍の状態が合法的に認められます。しかし、今回のテーマである帰化(Einbürgerung)は、明確に自己の志望にあたるため、原則としてこの例外には当たりません。

ドイツ国籍を取得する具体的な要件(Voraussetzungen)

日本国籍を失ってでもドイツ国籍を取得する価値がある、あるいは法改正を機に検討したいという方のために、具体的な取得要件を解説します。管轄の帰化局(Einbürgerungsbehörde)によって細かな運用は異なりますが、連邦法に基づく基本要件は以下の通りです。

合法的な滞在期間(5年または3年)

基本:ドイツに5年以上、合法的に滞在していること。

短縮(3年):ドイツ語がC1レベル以上であり、かつ特別な統合実績(Besondere Integrationsleistungen)がある場合。

特別な統合実績とは、職場での顕著な功績、消防団やスポーツクラブでのボランティア活動、ドイツ社会への深い関与を示す証明などを指します。

経済的な自立(Lebensunterhalt)

申請者自身と扶養家族を養うのに十分な収入があることが求められます。原則として、市民手当(Bürgergeld)や社会扶助(Sozialhilfe)を受給していないことが条件です。

ただし、過去にしっかりと働いていたがリストラに遭った場合など、新法では一部例外規定も設けられています。

ドイツ語能力(Sprachkenntnisse)

原則としてB1レベル以上の証明書(Telc, Goethe, TestDaFなど)が必要です。

3年での早期取得を目指す場合はC1レベルが必須となります。

帰化テスト(Einbürgerungstest)への合格

ドイツの法制度、社会、歴史に関する知識を問うテストに合格する必要があります。全33問中17問正解で合格です。ドイツの学校(Hauptschule以上)を卒業している場合や、法学・政治学などの学位を持っている場合は免除されることがあります。

民主主義的価値観への誓約

ドイツ基本法(憲法)に基づく自由で民主的な基本秩序を尊重することを署名により誓約します。

新法での追加点として、反ユダヤ主義、人種差別、外国人排斥などの行為を行った者は明確に帰化の対象外となりました。これは昨今のドイツ国内の情勢を反映した厳しい規定です。

無犯罪証明

重大な犯罪歴がないことが条件です。ただし、軽微な罰金刑(90日分未満の罰金など)であれば、問題とならないケースが大半です。

ドイツ国籍を取得するメリットとデメリット

ドイツ国籍を取得するか、永住権(Niederlassungserlaubnis)のままでいるか。これは多くの在独日本人が悩むポイントです。

ドイツ国籍を取得するメリット

  1. 選挙権・被選挙権:連邦議会や州議会など、ドイツの政治に直接参加する権利が得られます。長く住む国の方針決定に関われるのは大きな権利です。
  2. EU全域での完全な移動の自由:EU市民として、どの加盟国でもビザなしで居住・就労が可能になります。これは配偶者や子供にとっても大きなアドバンテージです。
  3. 職業選択の自由(公務員):警察官、外交官、一部の教師や司法関係など、ドイツ国籍が必要な公務員職(Beamter)に就くことができます。
  4. 再入国の制限撤廃:永住権の場合、ドイツを6ヶ月以上離れると失効するリスクがありますが、国籍であれば何年海外に住んでもドイツに戻る権利は消えません。
  5. ビザ更新からの解放:外国人局(Ausländerbehörde)の予約戦争や書類準備のストレスから永久に解放されます。

ドイツ国籍を取得するデメリット

  1. 日本国籍の喪失:最大のデメリットです。日本への帰国時は外国人として入国することになり、90日以上の滞在や就労には日本のビザが必要になります。
  2. 陪審員等の義務:ドイツ国民として、参審員(Schöffe)や選挙管理などの義務が課される可能性があります。
  3. 相続・税務の複雑化:日本に資産がある場合、相続税などの扱いが変わる可能性があります。居住地主義が強いため、国籍だけで決まるわけではありませんが、専門家への相談が必要です。

申請プロセスと必要書類

申請手続きは、居住地の管轄役所(Einbürgerungsbehörde)で行います。2024年現在、多くの自治体でデジタル化が進んでいますが、審査期間の長期化が問題となっています。

一般的な申請フロー

  1. 相談(Beratung):自身の要件充足状況を確認します。オンラインのクイックチェックを提供している自治体も増えています。
  2. 必要書類の収集:日本からの書類取り寄せなどを行います。
  3. 申請書の提出(Antragstellung):オンラインまたは郵送、対面にて提出し、手数料(255ユーロ)を支払います。
  4. 審査(Bearbeitung):自治体によりますが、ベルリンやミュンヘンなどの大都市では1年〜2年以上かかるケースも常態化しています。
  5. 帰化証書の授与(Einbürgerungsurkunde):授与式にて証書を受け取り、晴れてドイツ国民となります。
  6. パスポート・身分証の申請:市民課(Bürgeramt)でドイツのパスポートを作成します。

主な必要書類リスト

  • 申請書(Antrag auf Einbürgerung)
  • 有効なパスポートと滞在許可証
  • 出生証明書(日本の戸籍謄本+アポスティーユ+公認翻訳士による翻訳)
  • 婚姻証明書(既婚の場合)
  • 直近3ヶ月分の給与明細(または自営業のBWA、納税証明書)
  • ドイツ語能力証明書(B1またはC1)
  • 帰化テスト合格証(Leben in Deutschland等)
  • 賃貸契約書または持ち家の証明
  • 年金支払証明書(Rentenversicherungsverlauf)

ドイツ生まれの子供の国籍(出生地主義の拡大)

今回の法改正は、ドイツで生まれる子供たちにも大きな恩恵をもたらします。

親の滞在要件が5年に短縮

これまでは、両親のどちらかがドイツに8年以上住み、かつ無期限滞在資格を持っている場合に限り、生まれた子供にドイツ国籍が自動付与されていました。

新法では、この親の滞在要件が5年に短縮されました。

子供の二重国籍(日本との関係)

ドイツで生まれた子供が、ドイツ国籍(出生地主義)と日本国籍(血統主義)の両方を取得した場合、これは出生による二重国籍となるため、日本の国籍法上も22歳(または20歳)までは合法的に二重国籍が認められます。

その後、国籍選択の義務(国籍法第14条)が発生しますが、この運用については法務省の最新の見解を確認する必要があります。少なくとも、親世代の帰化とは異なり、子供世代は合法的に二重国籍を維持できる期間が長い、あるいは選択の余地が広いと言えます。

費用(Kosten)

帰化申請にかかる費用は、連邦全体で統一されています。

  • 申請手数料:大人 255ユーロ
  • 未成年の子供(親と一緒に申請する場合):51ユーロ
  • 未成年の子供(単独で申請する場合):255ユーロ

これに加え、以下の付帯費用がかかります。

  • 帰化テスト受験料:25ユーロ
  • 戸籍謄本の翻訳・認証費用:約50〜100ユーロ
  • アポスティーユ取得費用(日本側):無料(郵送費のみ)
  • ドイツパスポート作成費用:約70〜100ユーロ

よくある質問(FAQ)

日本が二重国籍を認める可能性はありますか?

現在、日本国内でも議論はありますが、具体的な法改正の目処は立っていません。ドイツの改正を機に、日本側でも議論が加速することを期待する声は多いですが、現状の法律に従う必要があります。

3年で取得するためのボランティア活動とは具体的に何をすればいいですか?

消防団、赤十字、スポーツクラブのコーチ、難民支援団体などでの継続的な活動が評価されます。単にお金を寄付しただけでは認められません。ドイツ社会への積極的な参加を証明する必要があります。

申請中に失業したらどうなりますか?

審査期間中に失業し、市民手当(Bürgergeld)を受給することになった場合、経済的自立の要件を満たさなくなり、申請が却下される、あるいは保留される可能性が高いです。

帰化したら日本の名前(漢字)はどうなりますか?

ドイツの身分証明書にはアルファベットのみが記載されます。また、帰化のタイミングでドイツ風の名前に変更することや、夫婦別姓・同姓を選択することも可能です(Namensänderung)。

結論:戦略的な選択を

2024年のドイツ国籍法改正は、ドイツに根を下ろして生きる外国人にとって、歴史的なチャンスです。特に5年での取得、多重国籍の容認は、ライフプランの選択肢を大きく広げます。

しかし、私たち日本人にとっては日本国籍の喪失という重いトレードオフが存在します。

今後、生活の拠点を完全に欧州に置くのか。

親の介護や自身の老後で日本に戻る可能性があるのか。

子供のアイデンティティをどう育むか。

これらの要素を天秤にかけ、感情だけでなく、法的なメリット・デメリットを冷静に比較して決断することが重要です。もし迷いがある場合は、焦って申請せず、永住権のまま様子を見るのも一つの賢明な戦略です。


免責事項(Disclaimer)

本記事は、2024年12月時点でのドイツ連邦共和国および日本の法令、公的機関(BMI, BAMF, 法務省等)の情報に基づき作成されています。情報の正確性には万全を期していますが、法律は改正される可能性があり、個別の事例における審査判断は各自治体の裁量に委ねられています。

本記事の情報に基づいて行われた申請や手続きの結果、および国籍の喪失等について、当サイトおよび著者は一切の責任を負いません。国籍変更などの重大な法的決定を行う際は、必ず弁護士や各国の公的機関(大使館・総領事館・外国人局等)に個別に相談し、ご自身の責任において行ってください。また、日本の国籍法に関する解釈については、必ず日本の法務局や大使館領事部へ直接お問い合わせください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました